今から25、26年くらい前、私が部落解放同盟中央本部の教育・宣伝機関、解放出版社の事務局長になって、数ヶ月したときのことである。
古参の職員の一人から、実は前任者の事務局長が、裏口座に隠し金をプールしていたことを知らされた。その額は、およそ2000万円を超え、半分近くは、すでに使われていたように思う。指示したのは、当時の解放出版社の理事長だったM先生で、事務局長から編集部職員を通して、裏金を作っていた。
手口は、架空印税を計上した、とそのとき聞いた。一連の事情を周囲の職員に気づかれないよう聴取した後、解放出版社担当の中央本部K執行委員に、報告を兼ねて相談に行った。
K執行委員は、誰が指示したか、何の目的に使用したかが問題ではなく、出版社の金を組織全体の了承なしに個人所有した点を批判はしたものの、前任者に弁済を命じることも、加担した編集担当者の女性を罰することも、そして、対外的に公にすることもなく、“穏便”に内部処理するよう指示された。事務局長としての私も、まったく同意見だったので、この件は、それで終わった。警察・検察権力を介在させるような刑事告訴などは考えもしなかった。件(くだん)の編集担当の女性は、前任の事務局長のパートナーであったが、その後、今日まで退職後も解放出版社に在籍して活動している。
民間や行政関係機関では、このような形の収束は難しいかも知れないが、当時の反差別社会運動団体・部落解放同盟の精神的基調からは、当然の温情的で配慮のある処置であったと考えているが、どうだろうか。
連載第158回 コンプライアンスと解放同盟
連載差別表現
by 小林健治
http://rensai.ningenshuppan.com/?eid=175
https://archive.fo/08WXB
今から25、26年くらい前、私が部落解放同盟中央本部の教育・宣伝機関、解放出版社の事務局長になって、数ヶ月したときのことである。
古参の職員の一人から、実は前任者の事務局長が、裏口座に隠し金をプールしていたことを知らされた。その額は、およそ2000万円を超え、半分近くは、すでに使われていたように思う。指示したのは、当時の解放出版社の理事長だったM先生で、事務局長から編集部職員を通して、裏金を作っていた。
手口は、架空印税を計上した、とそのとき聞いた。一連の事情を周囲の職員に気づかれないよう聴取した後、解放出版社担当の中央本部K執行委員に、報告を兼ねて相談に行った。
K執行委員は、誰が指示したか、何の目的に使用したかが問題ではなく、出版社の金を組織全体の了承なしに個人所有した点を批判はしたものの、前任者に弁済を命じることも、加担した編集担当者の女性を罰することも、そして、対外的に公にすることもなく、“穏便”に内部処理するよう指示された。事務局長としての私も、まったく同意見だったので、この件は、それで終わった。警察・検察権力を介在させるような刑事告訴などは考えもしなかった。件(くだん)の編集担当の女性は、前任の事務局長のパートナーであったが、その後、今日まで退職後も解放出版社に在籍して活動している。
民間や行政関係機関では、このような形の収束は難しいかも知れないが、当時の反差別社会運動団体・部落解放同盟の精神的基調からは、当然の温情的で配慮のある処置であったと考えているが、どうだろうか。
こんなことを思い出したのも、解放出版社内で同じような裏金作りが発覚し、関係者が解雇されるという事件が、昨年秋にあったからだ。当事者は大阪の中央本部で行われた「調査委員会」に出席し、事実経過とお詫び、「着服金」全額の弁済を約束し、昨年末までに完済した。
しかし、中央執行委員会3名(1人は中央書記長)に若いK弁護士(中央執行委員の子ども)が加わった調査委員会の事情聴取は、刑事告訴を脅しの材料に、強圧的かつ権力的なものであり、中央執行役員はほとんど発言しなかった。
まるで司法修習生が行う、模擬裁判の検察官僚のごときK弁護士の言動は、どう見ても解放運動をともに闘ってきた仲間に対するものではなかった。
その一例を、解放出版でアルバイトをしていた一人の女性からの、事情聴取に応じるよう強権的に脅され、驚き、震え上がったことなどを記したメールを紹介したい。
アルバイトの女性たちに対し、強権的な検察もどきの取調べが行われていたことがうかがわれる。誣告罪(故意に事実を偽って告げること)に問われかねない内容も、別人からは聞いている。退職した二人からは、解放出版社に対する残業手当、退職金問題、つまり労働者の権利に関して、裁判に訴えることも考えていると聞いている。弁護士資格を剥奪する懲戒請求を視野に入れた対応も検討されているという。
事務所の鍵を勝手に取り替えて(これは前回書いたように違法行為)、職員を締め出し封鎖したことで、全国の書店からの注文に応え、発送する作業も滞り、読者にも迷惑をかけている。読者の信頼に応える出版社の社会的責任を阻害してまで強行された今回の事態の解決方法が、果たして正常な感覚の下で行われていたかどうか、検証する必要があろう。
ギスギスした、守られもしないコンプライアンスを声高に叫び、組織の浄化を訴える裏で、憎しみを抱き、検察的態度と手法で、職員の間の信頼とキズナを断ち切ることに狂奔する、上位下達の小市民的官僚組織に成り下がった運動体に、未来はあるのかと思う。